スタッフレポート

「食事記録を歯周治療に活かす!」について、勉強会で発表して

はじめに -食事記録からわかること-

食事記録はただ単に「何を、いつ、どのくらい食べた」という情報だけでなく、患者さんの生活リズム

や家族関係、価値観などといったさまざまな情報が読み取れることがあります。また歯周病が治り

にくい理由や、う蝕の発生、う蝕の進行が止まらない理由がわかることもあります。私たちの身体は、

食べたもの、すなわち吸収したものでできています。ですから患者さんの食事内容が、体の健康を維持

するために必要なものなのか、あるいは健康を害するものなのかによって口腔の健康に違いが出ること

も考えられます。

・タンパク質

 タンパク質は、筋肉・臓器・皮膚・毛髪などの身体を構成し、ホルモン・酵素・抗体などの身体を

 調節する機能を持つ重要な栄養素で、種類がたくさんあります。コラーゲンもタンパク質の一つ

 です。タンパク質の摂取量が少ないと、筋肉の合成が抑制され、同時に筋肉分解が促進されるため、

 全身の筋肉量が低下してしまいます。さらに断食や偏食などによって、極端に摂取量が低下すると、

 筋肉がいっそう分解されて基礎代謝量も低下します。その結果、太りやすくなり、血糖値も上昇

 しやすくなります。

・ミネラル

  鉄・亜鉛・銅・ヨウ素・マンガンなどがミネラルとされています。ミネラルも体内ではほとんど合成

 することができないため、食べ物から摂取する必要があります。鉄や銅が欠乏すると、貧血になる

 ことが広く知られています。亜鉛は味覚に関連するため、不足すると食品の味を感じにくくなり、

 味覚障害を引き起こします。ただし鉄の過剰摂取では肝障害、ヨウ素の過剰摂取では甲状腺機能

 低下症が発症することから、ミネラルは適切な摂取が重要です。

・ビタミン

 ビタミンは、身体の機能を正常に保つために必要な栄養素で、全身の細胞の再生やエネルギー代謝の

 ためにはたらきます。体内でほとんど合成することができないため、食べ物から摂取する必要が

 あります。ビタミンが欠乏すると全身に多様な症状が起こります。ビタミンA欠乏では視力の低下、

 ビタミンD欠乏では骨の形成が低下します。またビタミンB群が欠乏すると、口内炎などの皮膚症状に

 加えて、認知機能の低下をともなった意識障害や神経炎なども起こります。

《歯肉の血管にも悪影響な糖質の摂り方に要注意》

 歯肉は末梢血管が集まっているため、ピンク色をしていると言われていますが、この末梢血管が健康

 であるためには糖質過多にならないようにする必要があると考えられています。例えば、朝食はパン

 とコーヒー、昼食は天ぷらうどんといった食事は、栄養素でいうと炭水化物ばかりですが、

 このような炭水化物(糖質)の多い食事をとると、急激な血糖値の上昇によって血管を痛める血糖値

 スパイクや、血流が悪くなる組織の糖化が起きる可能性があります。ですから糖質の多い食事は注意

 が必要です。

《食回数の考え方》

 う蝕予防として、糖質を含む食事の回数を1日3回に近づけるようにアドバイスされる方が多いと

 思いますが、1日5回以内とおすすめするのもいいです。周知のとおり、食事を摂るたびに口腔内は

 酸性に傾き、歯の表面のカルシウムやリンが溶かされるものの、唾液の作用で時間とともに再石灰化

 が起き、歯質は維持されています。食事回数の増加に伴い脱灰のリスクが上がるため、唾液分泌量が

 少ない、ミュータンス菌が多いなど、う蝕リスクが高い患者さんは、食事の内容だけでなく回数と

 時間へのアプローチも必要になります。しかし血糖値スパイクを予防する観点からは食回数が少ない

 のもよくないと言われています。空腹時に急に満腹状態になると、血糖値スパイクが起こりやすく

 なると考えられているためです。

《糖質とタンパク質に注目した食事に関するアドバイス例》

➀毎食、最低2種類のたんぱく質を多く含む食品を摂りましょう

 ・タンパク質は、肉や骨、血液の材料になるのでとっても大切です。歯ぐきにも血管が集まって

  いますし、歯は骨に支えられているのでタンパク質をたくさん摂りましょう。

➁食べる順番は野菜→肉・魚・豆→糖質を意識しましょう。  

 ・この順番で食べると、血糖値の急上昇を抑えられるので血管にも優しいです。糖質の食べすぎも

  防ぎやすくなります。

➂糖質がメインの単品メニューを避けましょう  

 ・パン、スパゲティ、うどん、そばなどの糖質中心のメニューだけだと血糖値スパイクが起きやすく

  なって血管を痛めてしまいます。他にも身体に必要なたんぱく質などの栄養が足りなくなって

  しまいます。

➃糖質を含む食品を食べる回数を1日5回以内にしましょう  

 ・食べるたびにお口の中が酸性に傾くので、糖質を頻繁に食べるとむし歯になりやすくなります。

  たとえ少量でも頻繁に甘いものを摂ることを控えてください。

➄夕食後の糖質摂取を控えましょう  

 ・夜、寝ている間は歯を守る唾液の分泌量が少なくなってしまうので、歯の再石灰化が起こり

  にくく、むし歯のリスクが上がります。糖質は寝る前は摂らないほうが安心です。

➅砂糖の多いお菓子(特に飲み物)を避けましょう

 ・ジュースや炭酸飲料水には、身体に吸収されやすい糖質がかなり多く含まれています。だいたい

  1本当たりチーズケーキ3個分と同じくらいの糖質量です。それを一気に飲んでしまうと血糖値を

  上げてしまい血管を痛めやすいです。

➆無意識に摂っている糖質に気づきましょう  

 ・たとえばメロンパンの糖質量は約76gでチーズケーキ5個分です。はちみつ大さじ1杯はチーズ

  ケーキ1個に相当します。佃煮やドライフルーツなどにも血糖値を上げる糖質が入っています。

  糖質量を意識してみてください。

※以上の食事内容は腎臓疾患のある方や糖尿病でインスリンを打っている方などの有病者には当て

 はまらない内容を含みます。患者さんの健康状態によっては、タンパク質を増やしたり糖質を減らし

 たりしないほうが良い場合があります。 このような栄養素と歯周病・う蝕との関係については、まだ

 エビデンスがかなり少ないのが現状です。しかし臨床実感では、食事の内容や摂り方に配慮されて

 いる患者さんは歯科治療の予後が安定していますが、食生活が乱れている患者さんは治りにくい傾向

 があると感じています。 患者さんの食生活に関わることで患者さんが将来にわたって、口腔内だけ

 ではなく身体の健康を継続するお手伝いができるようになることが理想です。 また、ただ単に糖質を

 減らすアプローチではなく食事を楽しんでいただけるような指導を目標としています。

 

《感想》

  日々のTBIの中で患者さんの食事内容まで介入するのはなかなか難しいことだと思いましたが、会話

 の中で良いタイミングがあればお話を聞いてみることもいいかなと思いました。口腔は身体の一部で

 あるので患者さん一人ひとりにあったTBIができるようになりたいと思いました。

                                   衛生士 藤元

  2020/04/29   ふくだ歯科
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