スタッフレポート

口腔がん

「口腔がんから患者さんを守れ!」について、勉強会で発表して

口腔がんは早期発見されれば治療もしやすく、その後の傷害も少なく済み、生存率も高くなります。

 

日本は“がん大国”

日本人の死亡原因1位は「がん」です。こうした背景もあり、がんの早期発見早期治療に関しては急速

に研究が進められているため、日本の医療レベルは世界最先端と言ってもよいと思います。

しかし、口腔がんについて言えば、日本は必ずしも先進国とは言えないのが現状です。

 

口腔がんって?

口腔がんには、舌がん、口腔底がん、歯肉がん、頬粘膜がん、口蓋がん、口唇がんなどがあります。

つまり、そのほとんどが口腔粘膜に生じるということです。日本における口腔がんの多くは舌がんで、

次に口腔底がん、歯肉がんの順で多くみられます。上記に挙げたがんに加えて、喉の奥にできる咽頭

がんも含まれることがあります。

 

放置された口腔内の問題もがんの要因に

口腔がんの発症原因はタバコ、だけじゃない

がんになる要因には外的要因と内的要因があります。外的要因としては、発がん性物質(タバコなど)、

放射線、紫外線、ウイルス(HPV:ヒトパピローマウイルスなど)、細菌(ピロリ菌など)、慢性刺激が、

内的要因としては遺伝的素因が挙げられます。

口腔がんの原因について見ると、まず挙げられるのがタバコです。しかし、実は口腔がんの発症原因

には、それ以上に重大なものがあります。それが慢性刺激です。通常、口腔がんが短期間で急に発症

することはあまりありません。たいていの場合、最低10年の期間を経てがん化すると言われています。

つまり舌や歯肉、頬粘膜などに外部からの刺激が慢性的に加えられると、数年後、数十年後にがん化

するということです。

“口腔がん=喫煙者、高齢者のがん”はもう古い!

これまで、日本における口腔がん罹患患者の平均年齢が割と高齢だったことから、「口腔がん=高齢者

のがん」といわれてきましたが、最近では10代、20代の事例も頻発し始めています。

30歳以下の若い口腔がん、特に舌がんの患者さんのほとんどに認められた口腔内所見が、臼歯の舌側

傾斜や鋭利な咬頭でした。彼らが小学生ぐらいの頃、つまり臼歯が萌出した頃から、10年、20年に

わたって毎日その歯が舌を傷つけることで、慢性刺激となり、がんが発生していると推測できます。

慢性刺激となる口腔内の問題を抱えている人は要注意

・歯列不正     ・詰め物や被せ物不適

・義歯不適     ・舌小帯付着異常

・舌や頬の圧痕   ・アマルガム

・咬傷       ・口内炎 ・う蝕        など

・歯周病

年齢や性別、喫煙の有無にかかわりなく、このような問題を抱えている口腔内である場合、口腔がんの

発症につながる可能性があることを意味します。

 

口腔がんから患者さんを守るために歯科医院にできること

口腔がんの発症を予防する

・口腔内の環境を整えて刺激源を除去する

 口腔がんの原因には慢性刺激が挙げられますので、歯科医院で口腔内環境を整えて刺激源を除去する

   ことが重要です。例えば、鋭利な歯や補綴物を研磨したり、歯列不正があれば矯正を行ったり、義歯

   が合っていなければ調整するなど、日頃から行っている歯科治療が口腔がん予防にも大きく貢献して

   いるのです。

・卒煙を支える

・口腔粘膜を診る習慣をつける

異常を見つけたら、専門機関へつなぐ

・安易に経過観察を続けない

 異変に気づいた場合は、口腔外科などしかるべき機関へ紹介し、精査してもらってください。特に、

    2週間経っても口内炎や舌痛などが改善されない場合、がん化している状態かもしれません。

・安易に治療や抜歯を行わない

   口腔内の異常が継続している場合、安易に根管治療や抜歯を行わないようにしましょう。

 

〈まとめ〉

患者さんの口腔内を診る機会が一番多いのは、メインテナンスなどを行う歯科衛生士だと思います。

歯と歯肉だけではなく、舌や舌の裏、頬粘膜など、口腔内全体をチェックする習慣をつけ、口腔がん

の早期発見に努めたいです。

                                                  衛生士  関口

  2018/07/25   ふくだ歯科
タグ:口腔がん

「口腔がんセミナー」講習会に参加して

口腔がんとは

  口腔がんは顎顔面領域に発生する悪性腫瘍の総称である。病理組織学的に口腔がんの80%以上は扁平

上皮癌であり、その他としては小唾液腺に由来する腺系癌や、肉腫、悪性リンパ腫、転移性癌がある。

ここでは、最も頻度が高い扁平上皮癌を「口腔がん」として述べる。

1、わが国における口腔がんの罹患者数

  約7000人と予想されており、全がん(70万人)中の1~2%を占めると推定されている。

2、わが国における口腔がんの好発部位

  最も多い部位は「舌」である。

  部位別発生割合は、舌:60,0%、下顎歯肉11,7%、口腔底:9,7%、頬粘膜9,3%、

           上顎歯肉6,0%、硬口蓋3,1%と報告されている。

3、口腔がんの危険因子

  喫煙、飲酒、慢性の機械的・化学的刺激、ウイルス感染などが挙げられているが、主な危険因子と

  しては 喫煙(200種類以上の発癌物質)と飲酒(アセトアルデヒドの発癌性)が挙げられている。

  (さらに、アルコールはたばこの中の発癌物質を溶け出させる働きがある。)

4、重複がんの好発部位と発生部位

  口腔がんと重複するがんとしては、上部消化器がんや肺がんが多く、重複がんの発生頻度は11,0

  ~16,2%とされている。重複がんの60~70%は上部消化器または肺がんである。

前癌病変(局所病変)

 形態的にみて正常なものに比べて癌が発生しやすい状態に変化したもの。代表例が白板症、紅板症で

 ある。

1、白板症

  口腔粘膜に生じた摩擦によって除去できない白色の板状あるいは斑状の角化性病変で、臨床的ある

  いは病理組織的に他のいかなる疾患にも分類されない白斑。癌化率約10%。

2、紅板症(紅色肥厚症)

  臨床的、組織学的に他のいかなる疾患としても特徴づけられない鮮紅色の斑状病変で表面は平滑で

  あったり、顆粒状や小結節状を示し、正常粘膜との境界は明瞭である場合が多い。

  癌化率40~50%!!

前癌状態(全身の病気の口腔内部分症)

 明らかに癌発生の危険性が増加した一般的な状態。

 口腔扁平苔癬、口腔粘膜下線維症、円板状エリテマトーデス、色素性乾皮症、光線口唇炎、表皮水疱

 症、先天 性異角化症、前癌性メラノーシス、鉄欠乏性貧血がある。

1、扁平苔癬

 一般的に口腔粘膜に発症するが皮膚に生じる場合もある。角化異常を伴った慢性炎症性疾患である。

 一種の自 己免疫疾患。組織的には固有層に限局した帯状の密なリンパ球浸潤が特徴。薬剤(降圧薬、

 抗精神薬など)や  金属アレルギー、C型・B型肝炎、糖尿病との関連も指摘されている。両側性に

 多発する。癌化率は2~3%。

口腔癌

 特徴 口腔癌は他の臓器の癌と比べ直視可能で、腫脹、潰瘍などの自覚症状により早期発見が可能で

    あるが、実際に患者が医療機関を訪れる時にはかなり進行している症例が多い。その理由と

    して、初期の口腔癌は 口内炎、歯周疾患、補綴装置による褥瘡性潰瘍などと類似した所見を

    示す、部位や病期により臨床像が 異なるなどにより見逃されている可能性が指摘されている。

 口腔がん検診のポイント

1)口腔癌の多くは舌、口腔底、歯肉に発生するので、これらの部位は慎重に診察する。

2)色調、表面正常の異常、腫瘤・腫脹の有無を診る。異常を認めた場合は必ず触診を行う。

3)異常を認めた場合には、その原因を探求・除去する。

4)異常が2週間以上持続する場合には、専門医療機関へ紹介する。(通常のキズは2週間で治る。)

5)検診の意義や口腔癌の兆候・症状・予防について説明・教育する。(口腔癌と皮膚癌は患者さんが

  見つけることが多い癌。)

A、舌癌

1)舌癌は舌辺縁および舌下面に腫瘍を認める。(90%が舌辺縁)

2)舌尖をガーゼで牽引すると硬結を触診しやすい。

3)歯牙の切縁など機械的刺激が誘因となることがある。

4)舌運動がおかしい場合、舌下神経への進展と考えてよい。

5)葉状乳頭や有郭乳頭を心配して来院される事が多い。

B、歯肉癌

1)歯周病や智歯周囲炎など歯性感染症との鑑別。

2)義歯床下や辺縁部の褥瘡潰瘍との鑑別が重要。

3)X線所見が重要で圧迫型と虫食い型を示す。

4)抜歯をする前に、その理由に関して留意すべき。

C、口腔底

1)口腔癌や舌下面の腫瘍は舌に隠れるので注意が必要。

2)口腔底部の粘膜は菲薄であり、潰瘍を認めることが多い。

3)唾液の流出障害を示す場合もあるが、粘膜表面が正常な場合は唾液腺癌の可能性もある。

[診察の順序]

1、口唇:赤唇をまず閉口、次いで開口させて診察する。

2、下口唇と唇溝:口を半開きにして下顎前庭を診る。

3、唇交連、頬粘膜、頬溝:ミラーを鉤として用いて大きく開口させて頬粘膜全体を唇交連より前口蓋

  弓まで診察する。

4、歯肉および歯槽突起:頬側、口蓋側、舌側から診察する。

5、舌:安静位で舌骨をさらに舌を前方に突出させてミラーあるいはガーゼで舌尖部を保持して舌縁部

  を診察。次いで舌を拳上させて舌下部を診察する。

6、口腔底:舌を拳上したままで左右と中央部の口腔底を診察する。

7、硬口蓋と軟口蓋:大きく開口して一方のミラーで舌根部を適度に圧迫して硬口蓋、次いで軟口蓋を

  診察する。

(感想)

1か月に一度メンテナンスに通われている患者さんだと歯ばかりに目がいって、口内炎など患者さんが

言い 出さない限り粘膜をきちんと見ていないことがあります。癌なんかないだろうとという先入観が

発見を遅ら せるのだと思います。講演会の最後に助教の岸本先生が「直感が大事。いつもの歯周病と

なんか違うと思う ことが大事!」とおっしゃられていました。そのためには通常の粘膜をよく見ていな

ければなりません。気を ひきしめていこうと思います。

                                     歯科医師 太田       

  2015/08/14   ふくだ歯科
タグ:口腔がん