スタッフレポート

2021年1月11日

「歯周炎が治るとき、歯周組織にはなにが起きている?」について、勉強会で発表して

 1. 健康な歯周組織の特徴をおさらい

治癒像を理解するためには、病態像の理解が必要です。病態像を理解するためには、まず正常像(病気に

なる前の状態像)を理解することが必要です。

※歯周組織の正常像のポイント

2. 再植後の歯周組織が教えてくれる歯(歯根膜)と歯槽骨の関係

1」が外傷で脱落し、遅延型再植を受け、3年8ヶ月後には、再植された歯の歯根はほぼ吸収されてしまいました。

この時、上顎前歯部をCBCT(コーンビームCT)で診断した像を見ると、健全なL1とアンキローシスに

より歯根吸収を受けた1」の矢状面を比べると明らかなように、右上では唇側の歯槽骨のみが吸収され

ることがわかります。また、吸収は歯髄腔のあたりまであることがわかります。逆に口蓋側では、歯根

が吸収されても骨量は減少することがないことがわかります。  

※「歯根膜が死んでしまった歯」の反応が示すヒント

歯周炎は細菌感染による炎症反応で、歯根膜と歯槽骨が失われる疾患であることはよく知っていると

思います。歯根膜と歯槽骨がなくなる歯科疾患はほかにもあり、感染とは関係ないものもあります。

それが「歯の脱離後の遅延型再植」です。すなわち、外傷などで歯が脱離してしまい、脱離した歯の

歯根膜が乾燥して壊死してしまった状態で時間が経ってから元の位置に再植した場合です。脱離により

抜け落ちた歯はすぐに戻せば問題なく助かります。しかし、口腔外に乾燥状態で長時間置かれると、

歯根膜が死んでしまい、再植後にアンキローシス(置換性吸収)という歯根吸収が起きます。この時、歯

と一緒に歯槽骨も吸収されます。一見歯周病と関係ないこのアンキローシスによる歯根吸収と骨吸収

から、歯周病の進行にともなう病態像と歯周治療後の治癒像を導き出すことができます。

3. 創傷の治癒(推論)

① 上顎中切歯(おそらく上顎前歯部)では、歯根膜を喪失すると(歯を抜くと)唇側の歯槽骨が喪失する

② 喪失は、おおむね歯髄腔のあたりまで進行する

③ 歯槽骨には、「歯に依存する骨量(tooth dependent bone volume:TDBV)」と「歯に依存しない骨量

 (tooth independent bone volume:TIBV)」がある

   ↓

4. 歯周炎の病態像 上記の推論を歯周炎による病態像の進行にあてはめると以下のようになります。

① 歯周炎では細菌感染により炎症が生じ、歯根膜が喪失する

② 上顎前歯の歯槽骨は、唇側はTDBV(歯依存骨)、口蓋側はTIBV(歯非依存骨)とTDBVで覆われている

③ したがって歯根膜がなくなれば、すべての骨量が歯に依存している(TDBV)唇側では同時に骨もなく

 なることを意味し、水平性吸収が生じる

④ 口蓋側でも同様に固有歯槽骨(TDBV)はなくなるが、TIBVは残ることになる。とはいえ、炎症波及に

 よりある程度はTIBVの骨吸収も進行するので、口蓋側では垂直の骨吸収が生じる  

5. 歯周炎を起こしても骨縁上組織付着は存在している

 骨縁上組織付着は、炎症が進行しても失われることはなく、根尖側へ平行移動していくと考えられ

 ます。すなわち、骨欠損底から約数mmの根面には歯石はついていないことを意味します。麻酔下で

 SRPを行うと、ポケット底付近の結合組織性付着を破壊するかもしれないので、注意が必要です。

 

〈まとめ〉

歯周炎の治療には歯根膜の存在が重要であることが分かりました。無麻酔下で歯根膜に触れれば痛みが

あるので除去してしまうことは無いと思いますが、そのことを頭に入れて処置をしていきたいと思い

ます。 また、外傷で歯が抜けたり折れたりした患者さんから連絡があった場合に適切な対応をお伝え

できるようにしておきたいと思いました。

                            衛生士 星島

  2021/01/11   ふくだ歯科
タグ:歯周病