スタッフレポート

2018年8月

「私がこのプロフェッショナルケアを選んだ理由」を読んで

症例1:誤った行動変容により患者が磨かない

患者情報:26歳、女性/病歴:特になし、喫煙習慣もなし/性格:控えめでまじめ、心配性

初診時のセルフケア

•朝昼晩の3回のブラッシング習慣、歯間部清掃なし

•複数の歯科医院で口腔衛生指導の経験があり、すべての医院にて“オーバーブラッシング”を指摘

  された。

問題点

“歯磨きをすれば歯肉が痩せてしまう”という誤った認識を持っており、初診時には炎症はわずか

でしたが、2年後の再来院時には自然出血するほど辺縁歯肉に炎症がありました。再来院時の強い

炎症を持った歯肉は、複数の専門家が単純に“磨きすぎ”情報のみを伝えてしまい、患者さんが“怖くて

磨けない”という誤った行動変容に至ってしまった結果、招いたものだと思います。

何を伝える

口腔内の2大疾患である歯周病とう蝕いずれもバイオフィルム感染症であることを説明し、その対策

には歯面に付着しているプラークの除去が必須であることを伝えました。現状のセルフケアはむしろ

“アンダーブラッシング”であり、このままでは将来的に歯周病による付着の喪失に伴い、さらなる

広範な歯肉退縮を招いてしまう可能性があることも伝えました。

Point

何をみる?→患者さんの歯肉はもともと薄い

歯磨きの方法や歯ブラシの選択は、患者さん固有の歯周組織環境の違いにより異なります。患者さんは

歯肉がもともと薄く、許容できるブラッシング圧の範囲(ストライクゾーン)が狭いことが問題であると

考えました。

どうするケア?→適切な範囲の存在をわかりやすく伝える

この患者さんは歯肉がもともと薄いことから、ストライクゾーンが狭く、オーバーやアンダーになり

やすいことを添え、担当歯科衛生士として患者さんのストライクゾーンを的確に把握し、組織の安定に

導くことを約束して信頼関係を築きました。歯ブラシを処方する際も「なぜその歯ブラシを選ぶのか」

「歯ブラシの特徴」について説明を行うなど、何事にも理由を添えて、専門家が処方した清掃用具で

あることを強調しました。

今後のプロフェッショナルケア計画

もともとオーバーブラッシングとアンダーブラッシングを繰り返している方なので、歯肉に傷がない

か、プラークの厚み、炎症の有無など、そのときどきの歯磨きのクセを観察しています。

 

症例2:多量のプラークがあるが、セルフケアに興味がない

患者情報:59歳、男性/病歴:特になし/性格:せっかち、何事にもきっちり

初診時のセルフケア

•デンタルIQは低い

•1回/日、硬めの歯ブラシ、多量の歯磨剤使用し、大きなストロークで行なっている

•子供のころから親に歯磨きをしなさいなんて言われたことがない

•年を取ったら、歯なくなっていくのは仕方がないと思っている

問題点

多くの歯石とプラークが存在しますが、これまでの習慣で何も問題がなかったことから、セルフケアに

ついてあまり興味がありません。この年齢まで歯周病が進行しなかったのは、この患者さんのバイオ

フィルムが低病原性であり、不潔性の歯周炎と思われます。

何を伝える

歯周治療を行うためには、患者さんに歯周病について理解してもらい、セルフケア徹底してもらうのが

基本です。セルフケアに興味がなさそうであっても「今どうなっているのか」「どのようにすれば問題

を解決できるのか」を伝え、患者教育を行います。

Point

何をみる?→モチベーションがない、磨けていない

多くのプラークや歯石があることから、まずはプラークコントロールの大切さ理解してもらうことが

重要です。しかし、モチベーションのない患者さんに対して厳しく指導すると逆効果になることも

あり、来院途絶えるのは避けたいと考えました。

どうするケア?→ゆっくりと伝えていく

このような患者さんには、患者教育の後一度セルフケアの説明行ったら、プラークコントロール多少

悪くてもSRPをはじめ、歯石が取れると「こんなにすっきりするんだ」という感覚を体験してもらい

ます。それから、歯周病の病因論、セルフケアとプロフェッショナルケア、メインテナンスなどを少し

ずつ伝えていき、ゆっくりと行動変容が起こるのを待つことにします。

口腔衛生指導としては、まずは磨けていないことをわかってもらうことが大切です。そのため、染め

出しもちろんですが、舌で歯を舐めてもらい、ツルツル(磨けている)とヌルヌル(磨けていない)を感じる

ことができるかを練習してもらいました。また、歯磨き回数を増やしてみることを提案しました。

ただし、セルフケアのテクニックについて指導はしません。歯肉を傷つけたり、磨きにくい部位を自分

で感じるようになったら、テクニック指導のタイミングで、補助清掃用具の追加などもこのときに

行います。

今後のプロフェッショナルケア計画

仕事が忙しくなった際に生活習慣が乱れ、それに伴ってセルフケア意識が低くなってしまう傾向がある

ので、来院時には情報収集に努めますが、健康であれば急速に歯周病が進行することはないか考えて

います。むしろ加齢に伴い、全身疾患を有したときに注意が必要だと予測しています。そして治療が

必要になった場合、スムースに移行・協力していただけるように、信頼関係の維持、患者教育も欠かせ

ません。

 

まとめ

今回の症例はどれも患者さんの健康管理のために長期にわたって寄り添っており、う蝕や歯周病の予防

のみだけでなく患者さんの全体のリスクを考慮してケアの計画を立てていました。

プロフェッショナルケアではすべての患者さんに同一のケアを行うのでなく個々の患者さんに合わせた

ケアを考えて行っていくことが必要だと改めて考えさせられました。

                                                                                                                  衛生士 星島

  2018/08/29   ふくだ歯科
タグ:歯周病

「歯周病と関節リウマチ」について、勉強会で発表して

◎関節リウマチについて

 関節リウマチとは、免疫異常により関節に腫れや痛みをともなう炎症が起こる病気です。

   30~50歳代の女性に多く認められます。

 (症状)

 起床時における関節のこわばりや関節の痛み・腫れがあり、進行すると関節の変形や手足の運動が

    制限され、機能障害が起きます。

 

◎歯周病と関節リウマチの関連

 関節リウマチ患者はより歯周病(歯周炎)にかかりやすく、特に口の中を不潔にしているリウマチ

    患者は、歯周病が重症化します。

 関節リウマチと歯周病には双方向性の関係が示されています。

    関節リウマチがあると歯周病がさらに進行する理由は、手指関節の障害による不十分な歯磨き

 (プラークコントロール)、リウマチ薬により感染しやすくなることなどが考えられます。

    歯周病があると関節リウマチがより進行する理由は、Pg菌のもつ酵素(シトルリン化変換酵素)に

    より、リウマチに関連する自己抗体(シトルリン化タンパク)が増えるためと推定されています。

 

◎歯周病・関節リウマチ患者さんに対する歯科医師・歯科衛生士の役割  両疾患が併発している患者

   さんに対して、リウマチ治療ばかりでなく歯周治療・口腔ケアを行うことが重要です。

   臨床現場において歯科医師が行うことは、

   ① リウマチ専門医と相談して、リウマチの状態や使用薬物等を把握する

   ② リウマチと歯周病の関係と通院の必要性を患者さんに説明し、両疾患の原因・リスク因子をできる

        限り排除する

   ③ リウマチ症状により口腔清掃が不十分な場合は、電動・音波歯ブラシや洗口剤の使用を行う

   歯科衛生士は

   ① 患者一人ひとりに合わせた、無理のない口腔衛生指導を行う

   ② 両疾患のリスク因子おもに生活習慣指導を本人および可能なら家族とも連絡を取って根気強く

        指導する

   ③ リウマチの特徴的な関節症状や心理状況(孤独感・疲労感)を配慮して精神的サポートを行う

   歯周病・関節リウマチ患者に対する歯科医師・歯科衛生士の役割

   1. 口腔衛生指導 口腔清掃の指導、洗口剤の導入

   2. 口腔乾燥症対策 保湿剤の導入、唾液腺・咀嚼の刺激

   3. 生活指導  歯周病リスクの排除  リウマチリスクの排除

 

<感想>

今まで歯周病と糖尿病の関連については勉強してきましたが、今回関節リウマチとの関連について

学ぶことができました。実際に、関節リウマチの患者さんが「手が痛くて歯ブラシを持つのも辛い」

と言われていました。関節リウマチの症状をきちんと理解し、無理のない指導をしながらしっかり

とサポートしていかなければならないと思いました。

                                                                                                       衛生士 松本

  2018/08/22   ふくだ歯科