スタッフレポート

「患者さんのやる気を引き出すセルフケア指導」について、勉強会で発表して

歯周病は、プロフェッショナルケアだけではコントロールし得ないものであり、歯周治療には患者さん

によるプラークコントロールが欠かせません。 プラークコントロールの成否は、患者さんの行動変容に

よって左右されます。したがって、口腔衛生指導(OHI)は術者が一方的に指導するのではなく、患者

さんの想いを聞いたり、患者さん自身に気づきをもたらしたりするというアプローチが欠かせません。

1. なぜ歯周治療に"患者さんの主体性"が必要なのか?

 ・プラークコントロールは術者だけでは達成できない 歯周病は、歯肉縁上のコントロールと歯肉縁下

  のコントロールの両方で初めて完成します。したがって、術者が主に縁下のコントロールを担当

  する代わりに、患者さんには縁上のコントロールを担当してもらう必要があります。

 ・患者さんに"お願いして"行動を変えてもらっても長続きしない

  生活習慣病は習慣の蓄積です。改善するためにはその習慣を変える必要があります。セルフケアで

  担うべき部分を「術者がやってあげる」というアプローチは最低のラインになります。そこで、

  患者さんの行動を変えるための介入が必要ですが、「〜してください」という、患者さんに"お願い

  する"指導だと、もしかすると目標設定が低くなって、妥協的になり、患者さんが良くなろうとする

  のを邪魔してしまうかもしれません。患者さんがセルフケアを行う目的が「自身のため」にならな

  ければ、「自分の健康を守る」という長期的なゆるぎない価値観は根付きません。そのためには、

  患者さんが問題を自分事化し(=主体性をもち)、受動的な姿勢からより能動的な姿勢になるように

  サポートすることが必要なのです。

 ・患者さんができることを奪えば、自立を損なう

  セルフケアで目指すのも患者さんの自立です。私たちはあくまでも患者さんを支える立場です。

  緑上のプラークコントロールは、患者さんができること、患者さんが活躍するステージという意味

  合いもあるのです。

2. "患者さんの主体性"を生み出すエッセンス

 ⑴お互いの「つもり」を共有する 歯科疾患を診ていくうえで、SPTの重要性について、歯科医療者の

  イメージと患者さんのイメージを一致させていくことが必要です。今現在、患者さんが歯科に対し

  てどのような価値観を持っているか、SPTの重要性を理解しているか確認することは、患者さんの

  主体性を育む最初の入口であるとともに、価値観の向上を要するのかどうかのスクリーニングにも

  なります。

 ⑵患者さんのいちばんの専門家は患者さん自身である

  プラークコントロールにおける基本は、"やってあげる"を過剰に増やさず、"患者さん自身ができる

  ことを増やす"です。患者さんが自分で考え行動することが、自分自身の問題として捉えられる

  もっとも効率のよい道程です。しかし、一般的には歯周組織検査を終えると、患者さん自身が考え

  る間を与えず、即座に術者が説明を始めたり、その解決方法やアドバイスを与えたりしてしまい

  がちです。一見患者さんのために良かれと思っての行為は、患者さん自身の口腔衛生習慣の結果

  が、口腔内の状態にどのように反映されているかを自分で結びつけるチャンスを奪ってしまうの

  です。まずは、患者さん自身による自己評価の機会を設け、チェアサイドにてセルフケアの取り

  組みに関して想起してもらい、患者さんがその評価を表明するための機会を準備することが何より

  も重要です。 患者さん自身による患者さんの評価も主体性を育むためには大切で、そのためには

  自身の取り組み(セルフケア)を点数化してもらうといいでしょう。実際に患者さんにやってもらう

  と、満点ではないことも多々あります。満点をつけないということは、減点となる理由について

  患者さんに思い当たることがあるということです。それに対して、術者が根掘り葉掘り聞いたり、

  解決策を言ったり、指摘してしまいがちですが、それでは患者さんの主体性を育む機会を摘み取っ

  てしまうでしょう。むしろ術者は今できていることに対して評価するとともに、減点されている

  部分をどう満点につなげるか患者さん自身に問題を抽出してもらい、解決法を模索してもらうよう

  導くことが重要です。また、"大きな行動変容"を促すためには"小さな成功体験"を積み重ねること

  が大切です。染め出しにおいても、"染め出された赤い部分を減らす"という発想ではなく、"染め

  出されない白い部分を増やす"という見方で考えれば、言葉がけ1つとってもおのずと変わります。

 ⑶患者さんの言葉を重視する

  日常の臨床のなかで患者さんのプラークコントロールの改善が難しかったり、できていたはずの

  セルフケアが急に悪化したりするのは、なぜでしょうか。この「なぜ?」を解決するには分析が

  必要で、そのためには患者さんが問題に対しどのように向き合っているのか、あるいは何を難しい

  と捉えているのかを理解する"声"の拾い上げが重要です。患者情報はSOAPIE形式で記録を行うと

  有効です。その際、主観的な情報(S)として患者さん自身の考え方(価値観)や発言を拾い、歯周治療

  に対する患者さんの認識(温度)を確認します。それにより、モチベーションと(ブラッシングの)

  テクニックのどちらに比重をおいて介入すべきかをその都度判断します。

Subjective:主観的情報

問題に対する患者自身の発言

Objective:客観的情報

術者が測定する患者の情報

Assessment:評価

Sの分析評価(何がその発言につながっているのか)、

Oの分析評価(何がその測定内容につながっているのか)

Planning:計画

問題解決のための介入を優先機序などから計画立案

Intervention:介入

実際の介入・治療内容

Evaluation:期待される結果

今後の見立て、期待されること、次回以降のチェック事項など

 

 

〈まとめ〉

歯周治療にはプロフェッショナルケアとセルフケアの両方が大切というのは理解していましたが、

どうしても日々のTBIなどではこちらから色々説明してしまう事が多く、患者さん自身に気づきを

もたらせるような説明は出来ていなかったかもしれないなと思いました。染め出しの例にもありました

が、今後は患者さんにも意見を聞いて、自分で改善点に気づいてもらえるようなTBIもしていきたいな

と思いました。

                          衛生士 星島

  2022/08/07   ふくだ歯科
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