スタッフレポート

「適切なプロービング圧は何Nなのか?」について、勉強会で発表して

◎プローブによる人体への侵襲は限りなく小さい

  プロービングに関して「プローブのような鋭利なものを歯周ポケットに挿入して害はないか」という

  疑問がよく挙がる。プロービングに限らず、何かが身体に侵襲を与えるかどうかを確認するために

  人体を使って実験することは倫理的に難しい場合が多い。

  そこで、動物を使った実験によってシミュレーションされる。

   ex)1972年、TaylorとCamplellによる実験

     メスで歯肉溝部の歯肉と歯を切り離したところ、5日間で付着上皮のより 完全な治癒が

     起こった。

      →メスのような刃物で切開したとしてもこのような治癒が起こることから プロービングを

       しても特に大きな問題になるとは思えない。

◎プロービングを過度に危険視せず、正しい認識をもつことが大事

  プロービングを行った後には、当然ながら歯肉縁下のデブライトメントが行われる。

  場合によっては、歯周外科手術も行われる。歯周組織への侵襲という点だけを考えたら、これらの

  治療が引き起こすのはプロービングの比ではない。

   ex)2004年、Axelssonによる研究

     プラークコントロールプログラムに組み入れた患者を30年間追跡。

     その中でも繰り返しプロービングを行っているが、30年間で歯が喪失した原因としてもっと

     も多かったのは、プロービングが関係するとは考えられない「歯の破折」だった。

      →よほどやり方を間違えない限り、プロービングが非可逆的に組織破壊を引き起こす

       可能性は極めて少ないといえる。

 ◎プロービングの結果は、さまざまな要因によって左右されやすい

  ☆プロービングの結果に影響を及ぼす要因

    ・プローブの挿入方向

    ・歯石の有無

    ・修復物のオーバーハング

    ・プローブ先端の直径…大PPD浅、小PPD深

    ・プロービング圧…強PPD深、弱PPD浅

    ・プローブ先端の形態

    ・歯肉の炎症

《支持組織が減少しているが健康な歯周組織におけるプロービング時の出血とプロービング圧の関係に

ついての研究》

*研究目的

  慢性歯周炎で支持組織が減少したが、治癒によって歯周組織が健康となった患者における適切な

  プロービング圧を検証すること。

*研究対象

  中等度から重度の歯周炎に対する治療後のメインテナンスに2~6年通院していた患者10名。

  年齢層は36~69歳。

  被験者はメインテナンス期間を通じて極めて良好な口腔衛生状態を維持し、歯肉の炎症症状もごく

  わずかであった。また、期間中に支持組織の喪失がなかったこともPPDやエックス線写真で確認

  された。

*研究方法

  研究をはじめるにあたって、被験者全員に対し、ラバーカップやMIペーストを使った口腔清掃が

  行われた。その後、以下の内容を行った。

   研究開始14日後:プラーク指数および歯肉炎指数を記録した

   研究開始2日後、12日後:各クアドラントごとにそれぞれ0,125ニュートン(N)、0,25N、

               0,375N、0,5Nでプロービングが行われた。

               規格加重エレクトリックプローブ(先端の直径は0,4㍉)でプロービング

               を行った後、BOPの有無を記録した。

    ※クアドラント=4分の1顎のこと。

      上顎右側、上顎左側、下顎右側、下顎左側の4つに分けた場合の一つを指す。

    ※ニュートン(N)=力を表す単位。

     質量を表すグラム(g)とは意味合いが違うため、厳密には換算できないが、ここでは大体

     1Nを102gと考える。

  *主な結果

  プロービング圧が0,125Nの場合、BOPが起こる頻度は2,5%、0,25Nで4,7%、 0,375Nで5,1%、

  0,5Nで7,9%となった。

  また回帰分析の結果、プロービング圧とBOPの頻度との間に有意な相関がみられた。

上記の研究結果と、同じ研究者によって1991年に発表された研究の結果をあわせての結論は

「プロービング圧は0,25Nを超えるべきでない」というもの。

 →すなわち、0,25Nを超えると歯周組織が健康状態を保っているにもかかわらず、出血が起こる

  可能性(擬陽性率)が高くなってしまうということ。

    …しかし

   ・上記の結果をみると、0,25Nと0,375Nの場合ではBOPの頻度にさほど違いがないように

    思える。

   ・上記の研究、1991年の研究ともに、歯肉の炎症が存在する場合にどれだけ疾患を見逃す

    可能性があるか等の分析はなされていない。

     ⇒したがって「プロービング圧は0,25Nを超えるべきではない」という結論には少々疑問

      が残る。

数多くの文献などから総合的に考えると、プローブ先端の直径が0,35~0,4㍉の場合は0,25N~0,5N、

0,63㍉の場合は0,5~0,75Nのプロービング圧が最適であると考えられる。

 ⇒プローブ先端の直径によって、適切なプロービング圧にはばらつきがある。

  重要なことは治療前と再評価時で同様の圧でプロービングを行うということ。

  再現性の高いプロービングを目指すこと。

《感想》

 当院では頻繁にプロービングを行っています。 メインテナンスに移行した方では1~3ヶ月に1回。

P症状の強い方では2~3週間に1回ペースで行うこともあります。

歯肉を傷つけることがないよう細心の注意をはらって行いますが、それでもやはりレポートの初めに

あったような「プローブのような鋭利なものを歯周ポケットに挿入して害はないか」という疑問は

挙がって当然ではないかと思います。

 よほど間違えない限りプロービングが組織破壊を引き起こす可能性は極めて少ない、とあります

が、”よほど間違えたやり方”をすれば可能性は0ではないともいえます。

私たちDHは、プロービングを行うにあたり、適切なプロービング圧で細心の注意をはらって実施して

いかなければならないとあらためて感じました。

                                      衛生士 西内 

  2015/03/11   ふくだ歯科