ヒューマンエラーと医療安全
損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント(株) 橋本 勝先生
1.医療リスクマネジメント概論
★医療の質・安全の契機となった医療事故
ex)京都大学病院事件
★“To error is human“
☆年間4万4千人~9万8千人の患者が医療事故により死亡
☆交通事故やエイズよりもアメリカ人の死因の大きな割合を占める
☆投薬ミスによる死亡者数も、年間約7千人に上る
★歯科診療における賠償事故の特徴
2.患者さんとのコミュニケーションの重要性
★歯科における医療事故の事例
★苦情発生の一例
★苦情発生の下地
☆治療期間の延長について納得いただいていますか?
☆適切な説明無しに時間を守っている患者さんをお待たせしていませんか?
☆会計上のトラブルはありませんでしたか?
☆専門用語を使わずに患者さんに病状を説明していますか?
☆患者さんの不満・悩みを聞き流していませんか?
⇒知らず知らずのうちに、苦情発生の下地を作っているかもしれません
*2011年受療行動調査(厚生労働省)
医師から受けた説明に対する疑問や意見
→13.7% 十分に伝えられなかった
理由:質問しにくい雰囲気だった
的外れな疑問や意見のような気がした など
★伝えたこと≠伝わったこと
コミュニケーションのズレが原因のことが多い
(勝手な解釈、思い込み、意味の取り違え)
★説明時の状況を記録に残す
【記載項目】
・説明時間(○時○分~△時△分)
・説明時の内容、様子を再現できるくらい
患者さん側からの質問と、それに対する医療側の回答
患者さん側の反応等(うなずいていた、メモをとっていた等)
・質問が無ければ
「質問の有無を尋ねたが、質問が無かった」と記載
☆記載時の注意点
①前もって、これから行う処置やケアを記録しない
②自分が実際に見ていない患者さんの記録をしない
③記録の途中で行を空けない →書き忘れ等の誤解を与える ④思考過程が見えない、行動(実践)につながらない書きっぱなしの情報・アセスメント、は適切ではない ⑤勝手に要約しない…言った通りに書いておく ⑥擦ると消えるボールペンは使用しない、職場におかない
☆説明用語はわかりやすいですか?
☆コミュニケーションの種類
・バーバルコミュニケーション(言語的コミュニケーション)
・ノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)
☆良い話し手とは
・相手(目や顎など)を見て、ゆっくり話す
→信頼関係の構築
・身近なものに例えて、分かりやすい言葉を使って話す
→写真や絵を使用(イメージの共有)
・相手の理解するペースに合わせて話す
→相手のノンバーバルに注視(うなずきのリズム、視線の先 等等)
・「常識」「共通認識」を捨てる
→「自分の常識」=「相手の常識」と思わない
*コミュニケーションはずれやすいことを肝に銘じ、常に確認を怠らないこと!
→医療事故や訴訟、クレームを防ぐ1番のポイントとなる
〔まとめ〕クレームに発展させないために
◎医療者の常識≠患者、家族の常識
◎相手・自分のノンバーバルコミュニケーションに要注意
◎接遇は自分の身を守る1つの手段
3.ヒューマンエラーと医療事故
★医療事故の発生要因
1位 確認を怠った→「確認をきちんとする」
2位 観察を怠った→ 「観察を怠らない」・・・でいいのでしょうか?
①関心のあるものに注意が向く
②強い注意が向けば、その範囲が狭くなる
③注意力は持続できない
④強い注意の後に弛緩がくる
⇒注意にも限度がある⇒システムによるエラー対策!!
★安全意識低減の法則
・安全意識は、事故が発生しない限り単調に減少する
→安全状態が続くほど安全意識が低下し事故発生の準備が整う
★偽りの記憶
・記憶に頼った作業には、虚記憶の入り込む余地がたくさんある →薬品やカルテの記載事項、医療用具の有無などの確認は、記憶に頼らず、現物を前にして目で見ながら確認しなければならない *個々の確認精度を上げる方法 ○指差し確認を行う ○確認済みのものと未確認のものの区別を明確にする ○ゆっくり確認する ○誰が確認したかが分かるようにする ○中断しない ○複数で行う場合は役割分担を明確にする ★危険感受性 一般の大学生と看護学生に対して行ったテスト結果 目に見えない危険に関しては看護学生のほうが気付いたが、目に見える危険に関しては一般学生のほうがたくさん気付いた ⇒専門的な知識や経験が増すと、一般の人が危ないと思うような当たり前の目に見える危険に対する意識はおろそかになっていく可能性を示唆 ★錯誤 新人の行動:意識的に注意しながら行動する ⇒意識しすぎると他に注意がいかなくなり、上手く実行できなくなる ベテランの行動:体に刷り込まれていて意識せず(無意識)に何かのきっかけで行動する ⇒普段と異なる作業変更なのに、普段どおり作業してしまう ★同じエラーが繰り返されるときは… 何が起きたのか⇒調査・確認⇒分析⇒システムへの対策立案 →ヒューマンエラーの追及の前にシステムの問題に目を向ける 〔まとめ〕ヒューマンエラーと医療事故 ◎ヒューマンエラーを0にすることは難しいが、減らすことは可能 ◎慌てているときは、事故が発生しやすいという意識を持つ ◎エラー情報(知識・経験)の共有 ◎ヒヤリ・ハット段階で対策を実行し、事故に至らないようにする 《感想・考察》 医療事故の発生要因の大半は”確認を怠った””観察を怠った”という小さなミスです。 どんなに注意していても「人は誰でも間違える」ということを理解した上で、エラーの発生率を極力低くし、事故を未然に防げるよう常に意識して診療に臨みたいと思います。 衛生士 西内